Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「ひなた弁当」山本甲士(中公文庫)

 良郎は中堅デベロッパーの営業職。
 苦境に立たされる会社にあって、策にはまり、まんまとリストラされてしまう。

 リストラされた元中年サラリーマンが、路上販売のお弁当屋さんを始める物語です。
 前向きで元気になれるストーリー。
 もちろんハッピーエンドです。
 著者の方は、釣りがお好きなのでしょう。

 うまく立ち行かない会社、大変です。
 やめるも地獄。
 残るも地獄。
 次から次へと故障者続出。
 心の病気になります。

 路上販売のお弁当屋さん。
 買ったことはないのですが、信用を得るまでは大変でしょう。
 「ひなた弁当」って、響きはいいんですけど、暑い夏に耳にするとちょっと酸っぱそうです。

 日々口にする食品の出処。
 トレーサビリティなんていいますけど、実際にはほとんどわかりません。
 東南アジアのエビの飼育現場を見たら食べられないんじゃないかとか。
 中国でおばちゃんたちが串に刺しているであろう焼き鳥だとか。
 イメージの安全性や、含有物の安全性。
 ほとんど何もわからない工業製品を口に運んでいる毎日。

 主人公は、近所の川で魚をとったり、野草を採取してお惣菜を作ります。
 美味しいのでしょうが、これまた安全かどうかは別。

 おともだちが食品の検査をしています。
 水銀やヒ素が含まれていないかとか、混入物の特定だとか。
 近所の川でとった魚や、道端の野草はきちんと検査されないでしょう。
 防腐剤や殺菌剤ボトボトのサラダが安全かといえばそうでもないかもしれません。
 でも、近所の川の水銀や、土中の重金属の危険性は、誰も知ろうともしません。

 何が安全なのか、なんて、誰にもわからない。
 海の魚でさえも。

 幼い時には、実家の向かいの流れに自生するセリやヨモギをおひたしにしてもらいました。
 今もぼくは元気で暮らしています。

 巻末の末國善己さんの解説は、印象的なコトバで締めくくられています。
 少々長いのですが、引用します。
 スローフードスローライフの魅力を知った良郎は、いち早く大量生産、大量消費の社会に見切りをつけ、家族と語らい、仲間と働き、食うに困らないだけの金を稼いで、余暇を楽しむ生活へシフトした。良郎の選択は、近代社会の常識を疑い、視点を変えることで見えてくる別の幸福があることを、改めて教えてくれるのである。そして、その純朴で飾らない生きざまは、人間にとって幸福とは何か、日本は経済復興すれば本当に豊かになるのかを、見つめ直す切っ掛けにもなるように思えてならない。

 いろいろ考えさせられます。
 オススメ。