Magoの旅と音楽と

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「白き手の哀しみ 渡辺淳一メディカル・セレクションⅠ」渡辺淳一(中公文庫)

 上品な紳士の、就職間もない看護婦への最期の頼みとは。

 渡辺淳一の初期の短編作品集です。
 全部で7篇が収録されています。
 渡辺淳一作品ですから、まあ、性愛に関するものなんですね。

 舞台は昭和40年台初期となっています。
 病院は木造。
 還暦は老人の域。
 ガンは不治の病。
 性病は男の勲章。
 そんな、今とは違う世界観です。

 40年余りの月日。
 昔も今も、男女の間には、性愛。
 ここは変わりません。
 でも、昔は、ヒトの賞味期限も短かったのでしょうね。
 50歳ともなれば、かなり枯れた感じだったのでしょうか。

 表題作の「白き手の哀しみ」。
 プロットを書けば、なんてことはない。
 でも、この作品の主題はこんなことではないんですね。
 性愛を通して見た、人生であったり、生であったり。
 深くて、ちょっとうっとりさせられます。

 対して、この時代、意外に浅いのが思慮。
 セカンドオピニオン
 情報公開と知る権利。
 堕胎に際しての、産科医師の苦悩など。
 40年の月日を経て、我々の世界がいかに複雑になってしまったのかを思い知らされます。
 生まれて、生きて、死んで。
 もう少しは生物としての根幹が見えていたのかもしれません。

 現代のこの複雑になってしまった社会をどうしましょう。
 こちらのほうが、ぼくは不安です。