Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「友がみな我よりえらく見える日は」上原隆(幻冬舎アウトロー文庫)

 芥川賞作家、東峰夫、57歳。
 「大切なもの」のために捨てたもの。
 学歴、故郷、月給生活、妻子・・・

 ノンフィクションの形を借りた14編。
 16人の人生が描き出されています。

 どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのでしょう。
 もちろん、そんなことはこの作品にとって重要なことではありません。
 でも、気がかりなことです。

 どこか病んでいたり、ゆがんでいたりする生活者を追っています。
 各主人公たちのプロファイリング。
 目次と主人公の略歴を紹介してみましょう。
 「友よ」酒の上の事故で両眼を失明した公務員
 「容貌」男性とつきあったことのない46歳女性
 「ホームレス」東京で雑誌集めをするホームレス
 「登校拒否」無視された登校拒否生徒
 「テレクラ」夫がテレクラ通いをするのに嫉妬する女性
 「芥川賞作家」精神世界に没入するために世捨て人になった元作家
 「職人気質」ビデオに押されて仕事がないネガフィルムの編集職人
 「父子家庭」子どもに負い目を感じさせないために懸命な父親
 「身の上話」場当たり的な生活を続けてきた女性タクシー運転手
 「別れた男たち」離婚を経験した男性たちの生き様
 「女優志願」小劇団の悩める女優
 「うつ病」夢を追いつつも、うつ病になった自分を追い込む患者
 どうです?
 読んでみたくなったでしょ?

 事実は小説よりも奇なり、なんていう言葉も思い浮かびます。
 人はなぜそこにいるのか、なんていうことも思います。
 ホームレスや水商売の女性はもちろん、特殊な技能職の人々など。
 なぜそこにいるのかということを、聞いてみたい人は世の中にたくさん。
 そんな欲求を持っているのは、ぼくだけじゃないはず。
 この作品は、その欲求を、多少なりとも昇華してくれます。

 ああ、平凡な人生でよかったような、寂しいような・・・
 いえ、幸せなんだと思います。
 おそらく。