Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「ブラバン」津原泰水(新潮文庫)

 高校を卒業して四半世紀。
 結婚披露宴で演奏するために、かつて吹奏楽部で演奏したメンバーが集められようとしていた。

 高校のときの三年間って、いろいろありますよね。
 中学ほど盲目的にすごすわけでもなく。
 大学ほど自由に、そして刹那的に過ごすわけでもなく。

 ぼくも中学、高校と吹奏楽部に入っていました。
 サックスを吹く毎日。
 ぼくの出た中学、高校は、全校生徒の1割が吹奏楽部。
 100名を超える大所帯。
 でも、男子は各学年に数名。
 木管楽器にいたっては、男子は各学年に1名いるかいないか、という状態。
 そのときの男性メンバーを含めた面々が核になって、今のバンドをやっています。

 本作では、四半世紀ぶりにメンバーが集まって、演奏をしようとします。
 ということは43歳ですね。
 ほぼぼくたちと同世代。
 でも、1980年に高校生になったという設定ですから、世代としては5~6歳年上です。
 ここは結構重要で、作中で繰り広げられる曲やアーティストの薀蓄に大きくかかわります。
 ちなみに舞台は広島市

 弦バスのOBで、閑古鳥が鳴くバーのマスターが主人公です。
 この楽器設定が微妙!
 トランペットやクラリネットではないんです。
 しかも、軽音楽部とかけもちで、ベースも弾いたりします。
 なんだかリアル。
 どっちつかず、あれもしたいこれもしたいの高校時代をうまく表現しています。

 作品の内容は、どちらかといえばメンバーを集めに回るのがメインです。
 そこへ挟まる回顧録
 いったりきたり、さまざまな人々が入れ替わり立ち代り。
 妙に懐かしいエピソード。
 当時のグリスのにおいや、ほこりっぽい部室のにおいを思い出しました。
 同時に甘酸っぱい想い出も。

 40歳を過ぎると、人生もいろいろです。
 大出世するものもいるし、地元で楽しくやるものも。
 都会で働き、故郷に思いを寄せるものも。

 はっきりいえば、酔っぱらったおじさんの思い出話のよう。
 でも、それが懐かしい!

 あの人はどうしているだろう。
 また、吹奏楽でも吹いてみたいな。
 そんな気分になりました。

 十代の自分を振り返る大人の視線は手厳しく、今の自分を見つめる十代のころの視線は残酷だ。

 クサイせりふもあります。
 おっさん好み。
 吹奏楽部に籍を置いたことのある、おじさんまたはおばさんにオススメ。