Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「ちがうもん」姫野カオルコ(文春文庫)

 1960年代の関西の地方都市。
 閉店の準備をしている店を、無理やり開けさせてまで買ってもらった特急「こだま」。
 わがままを言った本当の理由は・・・。

 幼時のとっ散らかった記憶。
 断片的なあの光景。
 どこだったのかは思い出せないけど、確かに胸に刻まれた風景。
 親しく話してくれた大人たち。
 そんな昔の記憶と、現在の「私」の立場とが、つながりを持ち始める。

 セピア色の光景は、誰の胸にもあるでしょう。
 昔、家族で出かけた海水浴。
 そこで見た断崖絶壁。
 家の裏のそびえる山並みの向こうには何があるのか。
 活気のある市場の呼び声。

 同時代人が胸に納めている共通項のような光景を、鮮やかに描いて見せて、収束させる。
 そんな作品が5本、収録されています。

 懐かしくて、系統だっては説明できない記憶。
 そういう破片を、著者はつないで見せてくれるのです。
 でも、描かれるのはなんだか「幸せ」とは呼べない幼時。
 それが、読者のノスタルジーと、筆者の記憶を隔てる安全弁のような役割でしょうか。

 作中、越前町厨が出てきたりします。
 ぼくも小学校に入った頃、家族で越前町左右へ海水浴に出かけた記憶があります。

 気に入ったのが「永遠の処女」という掌編。
 ノスタルジックに描かれる町も、関西の地方都市、という設定。
 私は田代くんに、郷里の位置を説明した。紫野辺市。私がそこを出る高校生までは、人口二万六千人で、まだ「市」ではなく「町」だった。
 新幹線で京都に出、そこから東へ戻る案配でJR在来線に乗り換え、某駅で私鉄にもう一度乗り換える。もしくはJRの駅から私鉄会社のバスに四十分ほど乗る。と、そこが紫野辺町、現在は紫野辺市である。
 京都府内の都市という設定らしいのですが、京都からは2駅東に行くと大津です。
 あとは私鉄に乗り換えるといえば、舞台は八日市ですね。
 いまは合併して東近江市になっています。
 調べてみると、小説のとおり老舗の洋食店があります。
 急に旅心が駆られました。

 でかけてみよう。