Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「ためらいもイエス」山崎マキコ(文春文庫)

 ベンチャー企業で特許事務翻訳者として働くやり手OL、三田村奈津美はもうすぐ29歳。
 ガードが堅いと評される彼女は、実は男とつきあったことがなかったのだが・・・。

 何なんでしょう、このおもしろさは。
 スピード感のある文章で、冒頭からぐいぐいと引っ張られます。

 簡単に言えば、恋にオクテの女性が恋に落ちる物語。
 お見合いをし、サークル活動を始め、男に言い寄られちゃいます。
 お見合いの相手も、サークル活動を通じて知り合った職場の男性もキープ。
 突然訪れた「モテ期」でしょうか。

 彼女自身も、心の動きを感じながらも最初は否定し、とまどいます。
 仕事が恋人のような生活をしてきた彼女は、恋する身の置き所がありません。
 喜怒哀楽を取り戻し、女性としておしゃれに目覚めると、回りがちやほやし出します。
 なんだかリアル・・・。

 彼女を支えるのが同性の後輩「青ちゃん」。
 彼女はさばさばした性格で、カレシ持ち。
 主人公の人間に惚れ込んでいます。
 仕事面では尊敬しながらも、プライベートのダメさ加減にだんだんと気づき、アレコレ世話焼き。

 主人公と青ちゃんのやりとりのシーンが何度も描かれます。
 喫煙ルームだったり、休憩室だったり。
 東京のオフィスビルに勤めるOLの、給湯室での会話を盗み聞きするようです。
 おもしろ~い。

 対する男性陣も、クセのある人たちです。
 お見合いの相手は「ギンポ」くん。
 魚のギンポに顔が似ているというのです。
 釣ったことありますけど・・・、まあ、エソといわれるよりもいいかな。
 そして、高い収入にモノをいわせて、人におごりまくる人。
 勝手な思いこみの暴走くん。
 脚色はともかく、リアルにいそうな感じです。

 むかしコミックで「エスパー魔美」(←ちゃんと変換された!)という作品がありました。
 タカハタさんという主人公魔美の男子同級生が出てきました。
 彼は主人公魔美の「おともだち」なんです。
 タカハタさんはともかく、魔美はそう思っているんですね。
 タカハタさんはハラハラしながらも、魔美の行動を優しく見守っているんです。
 TVシリーズの「リジー&Lizzie」にもゴードという、よく似たキャラが出てきます。
 作品が進むにつれ、ゴードはお友達という状態に苦しみますが、リジーは脳天気。
 タカハタさんもゴードもちょっとオタクっぽくて、ルックスにはさほど恵まれません。

 ギンポくんはそんなキャラクタとして描かれています。
 オタクではないのですが。
 もちろん、恋人が何だかわからない年齢の主人公ではありません。
 でも、どうにも恋というモノに疎いのです。
 それをギンポくんはさも知ったかのように、うまく主人公をあしらい続けます。
 カッチョい~い。
 実は、ぼくは中学生の頃タカハタさんに憧れたことがあります。

 作品への不満といえば、ロストバージンのシーンです。
 イタ過ぎます・・・。
 これでは彼女がかわいそう。
 って、コレは男性特有の意見なのでしょうか。
 ちょっと腑に落ちません。

 うまく伏線が張られ、無理のない終焉を急速に迎えます。
 藤堂志津子の現代版といったところでしょうか。
 ありがちなラブストーリーといえばそれまで。
 でも、語り尽くされたことをうまく描くことこそ力量ですよね。
 いい作品に出会えました。
 かなりオススメ!