Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「かたみ歌」朱川湊人(新潮文庫)

 昭和40年頃、東京の下町。
 都電沿いの小さなアパートで、新たな暮らしを始めた男女がいた。

 よかったです!
 ハマリました!

 昭和40年頃の商店街を舞台にした、7編からなる連作短編集です。
 1編1編に直接的なつながりはありませんが、とある人物と土地が物語をつなぎます。

 この街は都電が通っていて、都心まですぐ。
 まだ個人商店が元気だった頃の、アーケードのある商店街。
 商店街には、レコード店から「アカシアの雨がやむとき」が流れています。
 小さな木造アパートに、お寺、公園、子どもたち。
 活き活きとした街の様子が描かれています。

 でも、ちょっと不思議な物語たち。
 単純な人情話ではなく、単純なホラーでもない。

 実はこの街には、時折不思議なことが怒ります。
 ウワサでは、この世ではないところとつながっている部分があるとか。

 実在する街なら、バブルの頃にはビルの谷間に飲まれて、姿を消しているでしょう。
 誰もが想像できる、下町風情の残る、大都市近郊の街。
 失ってしまったのは、風景や人、ニオイだけではなく、音楽だけでもなく、何か。
 この、何か分からない何かが、40年ほど経って描かれる風景には、マッチしています。
 この、何かは、街のもつ熱気であったり、人知の及ばないものであったり、愛であったり。

 この作品は、ぼくにはとても映像として想起しやすいものでした。
 ドラマや映画にはしやすいでしょうね。
 いい作家さんに出会えました。
 次はこのかたの直木賞受賞作「花まんま」を読んでみようかな。

 大オススメ!