Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「憑神」浅田次郎(新潮文庫)

 別所彦四郎は入婿先からの出戻りで、兄が継いだ実家で不自由な暮らしをしている。
 酔った勢いでお稲荷様の小祠に願をかけるが・・・。

 先述のとおり、 原作小説を読んでいる途中に、映画化作品を観てしまうという暴挙をしました。
 というわけで、映画と小説を比較しながら、感想を書きます。

 映画は妙にリアルさが伝わる映像でしたが、小説の方も生活感や背景が描き混まれています。
 つまり、時代物、サムライものでありながら、描かれているのは生活と思想です。
 映画が映像で雰囲気を作るのに対して、小説は、ときにストーリーの本流を逸脱したテーマを描くことで、背景の深みを作り出しています。

 映画がコメディなのかドラマなのかがもうひとつ判然としない作りなのに対し、この小説は明らかにコメディで爽快です。
 映画はうつむき加減のアングルであったり、疲弊しつつある江戸の街のリアルな描写が雰囲気を重たくしているのかもしれません。それとも、西田敏行の怪演が冒頭にあるがため、後半が重く感じてしまうのかもしれません。
 小説は、どんどん読み進んでしまうタイプの作品です。
 描かれる街の様子は映画と同じく破滅的なのでしょうが、市井の人々が政権交代により浮き足立っている様子も伝わってくるのです。

 登場人物は、映画の場合観たままですが、小説では読者の想像の域を出ません。
 やはり映画の死に神は、もっと幼い子が演じた方がよかったように思います。

 映画の終幕に、浅田次郎さん本人の映像がありましたが・・・。
 小説にはもちろん、ありません。
 小説の方がいい終わりかたをしていると思います。
 どうして映画ではあそこまで描いてしまったんでしょうね。
 小説を読んで、さらに残念な気がしました。

 さて、小説の感想です。
 重いテーマが軽く描かれています。
 人が生きていく上で避けられない、厄災というものを無責任なまでにおかしく描きます。
 時代の流れに竿を差して生きる主人公は、崇高であり、不器用であり、ある意味孤独であり。
 どうやら、お侍の価値観とぼくの価値観とはかけ離れているようです。
 時代に咲く徒花。
 でも、死んで花実が咲くものか。
 ぼくはカッチョよくは生きられないようです。
 自衛隊出身の浅田次郎さんは、幕末のお侍の価値観に共感を覚えられたということなのでしょう。
 カッチョいいです。

 ちょっと骨があって、読みやすくて。
 浅田次郎ファンはもちろん、皆様にオススメ。