Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「ハーモニー」伊藤計劃(ハヤカワ文庫)

 21世紀後半、人類は「大災禍」と呼ばれる混乱の後、世界的に福祉社会を形成していた。
 生命主義と呼ばれる思想のもと、個人の肉体も社会的リソースとして管理される対象に。
 人類の調和は、築かれたユートピアは本物なのか。

 すごい作品です。
 綿密に描きこまれた、社会情勢。
 匂いや暑さまでが、作品の雰囲気に現れています。

 人類の何割もが病死した後の社会では、健康こそが社会資本。
 数年前から始まった特定健診でも聞かれました。
 「放っておいてくれ!」
 とか
 「不健康になる権利だってあるだろ!」
 とかは、反社会的言動とされているのです。
 まっとうな市民はWatchMeという装置を体内にインストールし、医療サーバに監視させています。
 もちろん、タバコはダメ。
 お酒もダメ。
 カフェインさえ、罪悪とみなされる社会。

 人類が人類として過ごしていくためには。
 人類が健康に過ごしていくためには。
 一体何が必要なのか。
 この作品は、一石を投じています。

 効率一辺倒の現在の日本社会。
 効率化のために捨ててきた何か。
 そんなことをアイロニックに、感じさせてくれます。

 いきなり、htmlに使用されるようなタグから始まる本作品。
 なかなか度肝を抜く仕様ですが、これも最後まで読み進めるとストンと腹に落ちます。
 すばらしい。

 惜しい人をなくしたと思います。