Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「声だけが耳に残る」山崎マキコ(幻冬社文庫)

 元引きこもりの加奈子。
 社会復帰への足がかりに、自助グループとアルバイトに足を運ぶのだが。

 主人公は「元」引きこもり。
 「元」です。
 作中、とてもよく動き、出歩き、人の世話までします。
 全然引きこもりだった様子を見せません。
 引きこもっていては、物語が進まないのも事実なのですが・・・。

 冒頭から強烈です。
 耐性のない女性は受け入れられないかも。
 つながりを求めているというか、奔放というか。
 いきなりSM、調教シーンです。

 山崎マキコ作品、なぜだか面白いんですよね。
 本作に限っていえば、テーマも重く、描かれるシーンも決して明るいものではありません。
 でも、なぜか笑ってしまいます。
 それが調教シーンであっても、もうひとりの病んだ相手との会話シーンであっても。
 「さもありなん」
 主人公の独白に、強くうなずき、同時に笑いがこみ上げてくるのです。

 ところで、この主人公は元ゲームのシナリオライター
 かなりポテンシャルが高く、周囲の評価もそれなりに得ています。
 が、会社に使い捨てにされて疲れ果てていたのです。
 そして、PTSD。
 主人公の懐が深い分、切迫感はあまり感じられず、「ひとやすみ的引きこもり」にしか見えないところが残念です。

 前半が面白い分、後半が収束へ向けて急ぎすぎているという印象も受けました。
 初期の作品だそうで。
 ちょっともったいないかな。

 引きこもりや、PTSDをテーマとする作品として読むと、ちょっと物足りないかも。
 でも、なぜか面白い。
 ぼくは、好きです。