Magoの旅と音楽と

旅と音楽について書いています。

「みぞれ」重松清(角川文庫)

 怖かった父は、晩年をふるさとの古い家で母とふたり暮らしている。
 もう話すことさえできない彼の楽しみとは。

 重松清の短編集です。
 重松ファンは、期待通りの内容に満足できることでしょう。
 重松未経験のかたも、入門編としては、まずまずオススメ。
 11編を詰め込んだ、文庫オリジナルです。

 さて11編も入った短編集。
 いろいろな人物が描かれています。
 男性、女性、高校生、主婦、リストラされかけている会社員・・・。
 誰しも、何かしら背負って生きています。
 様々な人物が様々な主人公になって、人間模様が描かれています。

 これらの作品たちのなかで、ぼくがとくに心に残ったのが「電光セッカチ」。
 「CDの曲間の二、三秒の沈黙、それすらも待ちきれず、曲が終わると即座にリモコンのFFボタンを押す。」という、超セッカチ人間を妻の視点から描いています。
 この人物、とにかくセッカチで、そのテンポに周りを引きずり込みます。
 妻はことあるごとに戦々恐々。
 描きようによっては面白いのですが、読者に妻のストレスを共有させようとします。
 ぼくは、超のんびり屋さんなので、どうにもセッカチなひとが分かりませんでした。
 でも、この作品はひとつの回答を与えてくれています。
 妻がその回答に気付くのが、この掌編のエンディング。
 そのエンディングに至る道筋は、「愛」です。
 「ああ、こうだったのか」と、目からウロコ、そして、じんわりと胸が温かくなりました。
 そういう楽しみかたもあるんですね。
 ぼくにはムリだけど。

 いろいろな主人公の、いろいろな視点。
 いろいろな人生、いろいろな立場。
 気付かない物の見方が、潜んでいるような気がします。
 理解できない隣人にも、やはり愛をもって接しなければ・・・なんて。

 子どものいない夫婦を描くものが2編。
 善意の蹂躙がテーマのものも。
 今風ですね。

 ちょっとだけ、でもしっとり読むのには、最適。
 秋の行楽のお供に。
 オススメです。